November 09, 2008

池上 永一「夏化粧」

 ここのところ池上永一さんにはまって、今度は「夏化粧」を読みました。おかしくも最後はせつないところがなかなか(^-^)
夏化粧 (文春文庫) (文庫)
池上 永一 (著)
文藝春秋
¥ 690 (税込)
333

on 2008-11-09 03:39:44


 産婆のオバァのおまじないのせいで母親以外には姿が見えなくされてしまった息子を、なんとか他人にも見えるように元に戻そうとする津奈美。そのおまじないを解いてもらおうにも、その肝心のオバァは脳梗塞で急にぽっくり逝ってしまってどうしようもない。そんなところに出会った民俗学者のオジィがおまじないを解く方法を教えてくれる。それは、母親が子供にかけた願いを7つ、他の人から奪って来るというものだった。(以下多少ネタばらしありますので注意)

 息子を救うため津奈美は、夜な夜な陰の世界に身を投じ、自分がかけた願いを既に実現している人間から、その力を奪っていく。働き者からは勤労意欲を、短距離選手からはその走る力を、新しい遊びを考案して他のガキどもを率いていた少女から想像力を...
 最初は心配しつつも見守っていたオジィも、津奈美がついにオジィの孫からさえ大事なものを奪おうとするにいたって抵抗する。「それは君のエゴだ。人生には理不尽なことがまま起こる。それを受け入れるのが生きるということだ。子供は諦めなさい」
 たとえそれが倫理道徳に反していても、すべてを犠牲にする覚悟を決めた母親の強さと悲しさが、小説前段のちょっと抜けた(突き抜けた?)ユーモラスな雰囲気を段々と悲愴に変えていく。
 そもそも最初は産婆のオバァの理不尽でおかしなおまじない−それもちょっとしたいたずらに過ぎなかったもの−から始まった物語だ(そのオバァが他の人にかけたおまじないによる数々のエピソードも笑える)。それにムーンサルトを決められるほどやたらと運動神経のよい津奈美がルパン−あるいは峰不二子?−さながら人の得意技や美点を奪っていく姿は痛快にさえ思えた。けれど中盤からは彼女がした「泥棒」行為でいろいろな人がまさに自分の「未来」を失っていくことに違和感が大きくなってくる。前述のオジィの悲鳴はまさにこの感覚を代弁してくれる。
 やがて津奈美は自分が息子にかけた最後の願いにたどりつくのだが、それは...
 最後はせつなくもすがすがしい。
 
 池上さんの小説には、日常の「日本的常識」からするとんでもないことをする登場人物がたくさん出て来るけど、ここに登場するオバァや津奈美も我の強さ、破天荒さではひけをとらない。道徳は道徳...けど「そんなの関係ねぇ」というぶっ飛び加減が時に生命力の横溢を感じさせてくれる。(下品すれすれの強烈さでは「レキオス」のサマンサ・オルレンショー博士が白眉でしょうが(^-^;))
 しかし個人的には好きですね、この物語(^-^)v

 ついでにたまたま見つけた池上さんのインタビュー記事。
■作家の読書道:第51回 池上 永一
Posted by roku at 03:38 AM | from category: topics 本/Web読み物・雑誌/素材
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