July 04, 2006

アンデルセン・プロジェクト、観て来ました。

 前に紹介したルパージュのマジック、先週観て来てしまいました。すごかった〜〜
■アンデルセン・プロジェクト|ロベール・ルパージュ作・演出
 今回の主な登場人物は3人。パリ・オペラ座からアンデルセン原作の新作オペラ「ドリアーデ」の作詞を依頼されてカナダからやって来た作詞家、フレデリック・ラポワント。オペラ座のディレクター、アルノー・ギンブレティエール。パリに住みポルノビデオショップで働くモロッコ系の青年、ラシド・エルワラシ。
 フレデリックは英語とフランス語、アルノーはフランス語メインで英語も時々、ラシドは一言もしゃべらない。
 フレデリックはアルビノという設定で、そのせいで昔からいじめられて来たらしい。今回彼がフランスで借りたアパートの持ち主は、彼と入れ替りにカナダのフレデリックのアパートに間借りしているという設定。しかしフレデリックが借りたアパートの部屋はラシドのいるポルノショップの上の階にある。
 そのポルノショップには何故かアルノーが孤独を求めて(?)時々やって来る。

 フレデリックはオペラ座の依頼で来たのに、当のオペラ座の方ではデンマークやアメリカ、その他の国々との政治的駆け引きでその仕事をアメリカ人に回すことに。何も知らないフレデリックはカナダに残して来たガールフレンドが気になってしょうがない。仕事をしっかり仕上げて収入を手にカナダに帰りたいが、オペラの製作は彼の目の前で遅々として進まない...
 アルノーは妻を友人に奪われたらしい。どうしてそうなったのか?
 象徴的に、アンデルセンの童話「影」(日本では"影法師"と訳されている)をアルノーが娘にせがまれて寝床で読んで聞かせるシーンが挟み込まれる。粗筋は;
 寒い国から暑い国にひとりの学者がやって来る。その国で人々は暑い日中は家に引きこもり日が沈むと通りに出て涼気を楽しんでいたが、学者の向かいの家だけはずっと閉め切ったまま人の気配もなかった。
 ある晩向かいの家の花が美しく輝き、家から甘美な音楽が聞こえて来る。好奇心を持った学者が自分の影に向かって「自分の代わりにあの家に行って中の様子を見て来てくれないか」と言うと影は向かいの家に入って行き、それっきり戻って来なかった。
 そして何年か後のある日、学者が家のドアを開けるとかつての自分の影が立派な身なりで立っていて、「私はあの向かいの家ですべてを見ました。そして人間になりました。」と語る。そしてそれ以来、学者と影の関係は逆転していく。
 結構こわい話で、これを眠る前に読めという娘に、アルノーは不承不承応じるのだけど、それはあたかも彼自身の身の上を暗示するかのよう。
 一方フレデリックに関わるアンデルセンの物語は、作詞を依頼された「ドリアーデ」(英語でドライアッドと聞こえた)。こちらは木の精の乙女がパリに憧れ、万博に賑わうパリの一夜と自分の命を取引するお話。彼女の健気なまでの憧れと挫折(?)は、華々しいパリでまるで"田舎者"だったアンデルセン自身を投影していたようだけど、それがここではフレデリックに重なる。憧れ、期待に胸を膨らませてやって来たが、実は自分は取るに足らない異邦人でしかない。それは最初から"異邦人"で長年住んでいてもやはり"異邦人"であり続けるラシドの姿もかすめる。
 結局三人は孤独なまま交差し、深く絡み合う前にほつれて離れていく。

 なんだか相変わらず皮肉でおかしな人間模様だけど、そこに盛り込まれるイメージの変換はやはりすごい。
 立ち並ぶポルノビデオショップの個室は、電話ボックスになり、公園で犬の散歩に出かけると、首輪につけられたヒモが犬の表情を語り出す。その公園には大きな木が並び、街にはスプレーでグラフィティ(ラクガキ)を描きなぐる若者。中でもアルノーが小さな照明を手に語る「影」のストーリーは素晴らしい。まさにアンデルセンの物語が目の前に現れ、語り手のアルノーに哀れな学者や不敵な影の姿が見えて来る。

 一瞬に空間が切り替わり、キャラクターが入れ替る。前回に引き続き、ルパージュのイマジネーションの凄さに圧倒された。

 公演の終了後、ルパージュ氏と日本語版を演じる予定の白井晃氏、翻訳の松岡和子氏による対談が行われた。
 ルパージュ氏によると、この「アンデルセン・プロジェクト」の公演は既に150回を越えるという。その間に実に多くのシーンが作られたり削られたりして、最初のバージョンのかなりの部分が入れ替ってしまったらしい。
 白井氏は日本語版の出演を割りと気軽に引き受けてしまったようだが、ルパージュ氏の公演を何回も見た上でリハーサルを始めてみて、その難しさに今頃になって怖くなり始めているとか。実は白井氏がわざわざカナダやフランスまで出かけて見た公演の間にも、細かい変更がいろいろあって、日々この劇は進化しているのだそうだ。
 ルパージュ氏は最後の方で「これから全部変えようか?」とか冗談を言っていたが、白井氏の顔がひきつっていた。(この対談、カナダの国営放送が取材に来ていたから、あの顔も放送されるのだろうか)

 正直、日本語版は見る予定はなかったけど、ちょっと興味が出て来た。
 なんとか時間が出来たら、そして当日券が買えたら、観に行ってもいいかもしれないと思った。白井さん、頑張って!

 ちなみにアンデルセンについて。
■ハンス・クリスチャン・アンデルセン - Wikipedia
 「影(法師)」も「ドリアーデ」も載ってないけど、伝記的なことはよくわかる。
 しかし劇中でも言っていたけど、アンデルセンの童話では「欲望を持つ者は必ず罰を受ける」んですね。「パリの賑わい」を見たかったドリアーデは霧となり、「向かいの家の様子」を知りたがった学者は命を失った。「きれいな赤い靴」を欲しがった娘は足を切り落とされることになったし、「人間の王子」に恋した人魚は泡となって消えた。
 こうしてみると「欲望」に対して死の試練を課すアンデルセンの"神の手"は厳しい。
 う〜ん、グリム童話も怖いけど、アンデルセンも結構怖いなぁ...

Posted by roku at 12:58 AM | from category: topics TV/芸能娯楽/舞台等
Comments
No comments yet
このアイテムは閉鎖されました。このアイテムへのコメントの追加、投票はできません。
Trackbacks
Trackback URL